先日配信になった郵趣研究誌165号を拝見しました。その9ページに貯金台紙の表紙の色を区別するためにCMYKの色分解が示されていました。以前、他の方も同様の目安を示されていましたが、どうせならCMYKではなくRGBで示した方が良いという提案です。

<1.基本:厳密には再現は不可能>
美術印刷を手掛けられる方なら常識なのですが、絵画作品をデジタル(光)や紙(印刷)で完全に再現することは不可能です。せいぜい2割が良いところだという基本認識を持ってください。その理由は簡単で、人間の目は光や印刷で再現できる領域よりはるかに広い色域が知覚できるからです。なのでRGBにせよCMYKにせよ、それで再現できることはあくまでも目に見える色の一部に過ぎません。
解説画像のようにRGBの領域の方が広いので、どうせならCMYKよりRGBの方が表現しやすいことはおわかりでしょう。これだけで結論が出たようなものですから、色彩に関心がない方はここまで読んでいただければ十分です。
(解説画像引用先:Designature様)

<2.色の指標は何通りもある>
図はPhotoshopのカラーピッカー画面です。右下にHSB、Lab、RGB、CMYKの4通りが示されています。最初の3つが光、最後のCMYKが印刷の色分解指標です。昨今はスキャナーの性能が上がり、簡単にCMYKに色分解できることから郵趣の分野でもこれを利用しようとされたであろう動機は十分に理解できます。ですが、CMYKではどうしようもなく適さない理由があります。

<3.特色をCMYKに色分解するのは意味がない>
CMYKはオフセット印刷 (プロセス印刷) のために開発された色指標で、少なくとも日本では高度経済成長期以前には多色印刷が可能な高性能のオフセット印刷機自体がありませんでした。それ以前は、ご存知のように凸版印刷が主で、意図する色になるように職人さんがひとつひとつインクを調合して作っていました。その色のことを特色 (とくしょく) と言います。特色印刷されたものを無理やりCMYKに色分解しても意味がないことはおわかりでしょう。元々のインクの合成が違うからです。
<4.CMYKとRGBの違い>
小中学生時代に学校で習っていることですが、念のため改めてご説明します。
CMYKはC (シアン)、M (マゼンタ)、Y (イエロー) の意味で印刷の3原色です。これを全部混ぜると黒 (Black) になります。ただし、全色を混ぜるとキレのない黒にしかならないことや、なによりインクがもったいないので、普通は安い黒インクを別に用意してCMYKと称します。色を混ぜれば混ぜるほど暗くなっていくのでこれを「減色混合」と言います。
RGBはR (red 赤)、G (green 緑)、B (blue violet 青紫) の意味で光の3原色です。これを全部混ぜると白 (white) になります。色を混ぜれば混ぜるほど明るくなっていくので、これを「加色混合」と言います。
(解説画像参考先:DiGiTA様)

<5.RGBをCMYKに変換すると色が濁る>
モニター画面では鮮明に見えていたのに印刷したら色がくすんでしまった経験はどなたもおありでしょう。これは第1章でお話ししましたように、CMYKはRGBより表現できる色域が狭いからです。この現象は必ず起きます。ですので、いかな目安とはいえ、CMYK分解された通りの数値をグラフィック・ソフトで再現しても、モニターに映る色も印刷した色も見映えが異なります。しかも各自がお持ちのパソコンとプリンターによってもすべて再現される色が違います。それを正確にやろうとすれば、キャリブレーションと言って関係者全員のモニターを同期させなくてはいけません。キャリブレーションは印刷のプロが費用をかけてわざわざ行うものであって、およそ郵趣家がやるには度を越しています。私もそこまではお勧めできません。
(解説画像引用先:学校販促応援隊様)

<6.最も現実的なのはカラーガイド>
誰でもが最小の誤差で色指定ができるのは、実は最もアナログな方法です。日本では大日本印刷さんが出しているDIC (ディック) カラーガイド、あるいは世界的に通用するPANTONE (パントーン) カラーガイドを使う方法です。カラーガイドを対象物に重ね合わせ、もっとも近い色を探し出し、そのカラーチップの番号を示すのがいちばん正確です。
古い切手や外国切手では日本メーカーのインクを使っているわけがないので、本当のことを言うと、これすらも近似色 (きんじしょく) に過ぎません。ですが、郵趣における色の指標としてはこれが最適な方法と言えます。たとえRGBであっても、第5章で述べたようにキャリブレーションをしない限りモニターに映し出される色は1台ごとに全部違います。カラーガイドは決してお安くはありませんが、どうしてもという時はこれが最も有効です。

<7.直近の切手を見てみよう>
切手趣味週間切手のカラーマーク部分を高解像度スキャンしました。プレスリリースでは凹版1色 (黒) とオフセット6色と発表されています。これを向かって左側から順に見ていきましょう。
黒の凹版の後に6色並んでいます。このうちグレイ、金は補色 (ほしょく) と言い、CMYKでは表現できない色の場合に特色として使われるものです。大事なことはグレイはともかく金色はCMYKでは表現できません。その他、銀や銅といったも金属色もムリ、蛍光カラーもムリです。デザイナー現職時代に「何とかならないのか?」とごねるお客さんもいましたが、性能以上のことを要求されても無理なものは無理です。
色彩に乏しい古い切手ならまだしも、これから発行される切手ではこうした補色や特色が多種多様に使われることでしょう。CMYKで印刷できないから使われるのですから、将来的にはCMYKで色分解しても捕捉できない色がたくさん出てきます。なので、目安とするにしてもRGBの方がまだマシなのです。
あくまでも目安とするならモニターに映った色を見て手元の当該物と比較してください。それでも厳密にはモニター1台ごとに色味が異なることは承知されてください。

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