切手裏面貼付の歴史
本来は郵便物表面に切手を貼りきれなかった場合にのみ例外的に認められているものです。その実例は”「料金切手裏面貼付」印”の記事を参照ください。
現代では絵はがきの絵柄面に切手を貼り、記念印や風景印を押してもらい、そのまま送り出してもらう「引受消印(ひきうけけしいん)」がよく見受けられます。これは業務上支障がない範囲で便宜的に受け付けていただいているものです。郵便局さんのご好意であることは肝に命じてください。
明治末頃から外国人も次第に訪日するようになりました。実際に盛んになったのは昭和時代(1925〜)に入ってから。次第に増加し、1935年(昭10)には42,629人(うち、観光目的は16,045人)に達しました。そんな外国人旅行者が絵はがきの絵柄面に切手を貼り、母国の家族や友人たちに絵はがきを送るという”作法”を盛んに行ったと伝えられています。郵趣趣味ではなく絵はがき趣味として、です。その際に、本来の切手貼付位置に"Stamp Over"と記すなどしていました。日本語で言えば”切手裏面貼付”です。これが定説です。
ところが、先日の博多での即売会でこれを発掘しました。最初から”切手裏面”と印刷されている絵はがき(記念押印)です。消印は大阪、昭3.11.14つまり1928年という定説を覆しかねない早い時期の、それも日本人による作例です。幸いにも製作者は梅谷紫翠と明記してあります。ググると簡単に判明しました。こけし収集をはじめとする多方面にわたる趣味人であられたようです。本職は歯科医とのこと。
何が重要かというと、最初から絵柄面に切手を貼り記念押印または引受消印をする前提で絵はがきを製作されている点です。紫翠さんは郵趣の方ではお名前は知られていないのでおそらく郵趣家ではなかったでしょう。郵趣品としてではなく絵はがき趣味品として作られたものでしょうが、しかし、欧米人の”作法”をすでに知っていたか、あるいはご自身の独自のアイデアで、今郵趣で言うところのマキシマムカードのフォーマットを作られていた何よりの物証です。
日本人絵はがき収集家による”切手裏面貼付”の歴史は、絵はがきおよび郵趣双方の研究者によってきちんと研究されるべき必要性を強く感じます。
※詳細はFSC会報(facebook内の専用会議室)にて
<参考>
・日本郵趣史 天野安治著(2012)/公益財団法人日本郵趣協会
・どれくらい多くの外国人が日本を訪れていたの?
・切手の豆知識 第32回「マキシマムカード」
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