究極のヤラセ
1996年の夏、財団法人日本郵趣協会はモンゴルに「日本モンゴルジュニア親善使節団」を派遣しました。いずれも私の郵趣の教え子たちで、現地からいろいろなカバーを作って送ってくれました。当時の通信文を見返すと「椙山さんの好きそうなゲテモノを送ります」としれっと書いてあります。当時から私の悪趣味は知れ渡っていたわけです。その中でも最高のゲテモノがこれです。貼ってある4種の切手を見ただけで「おっ!」と唸った人は相当なヘンタイです(笑)。
1962年7月、モンゴルは図版のチンギス・ハーン生誕800年記念切手4種を発行しました。モンゴルも鷹揚なもので何の疑問も抱かなかったらしい。ところがソ連にとってチンギス・ハーンは歴史上最大の宿敵です。えらく不評を買ってしまい、モンゴルもやっと事の重大さに気が付いて慌てて発売中止にしました。郵便窓口から一斉に引き揚げて倉庫の奥にしまい込んでいたと言われています。
それが1989年の民主化を受けて、保管していた切手に”CHINGGIS KHAN CROWNATION 1189”の黒加刷を施し、即位800年記念切手として1万組だけが世に出ました。加刷の方も貴重ですが、図の無加刷の方がよりレアなのは容易に想像できると思います。使節団の彼らは現地の収集家との交換会でこれを入手したそうです。それを実逓使用したところが素晴らしい。きっと先生が良かったのでしょうね(笑)。
しかし、モンゴル郵政の消印は不鮮明である場合が多いです。このまま投函しても消印で失敗しかねないと考えた彼らは究極の方法を思いつきます。歓迎のレセプション・パーティーの席上でカバーをとある人物に託したのでした。その人物とはモンゴルの郵政大臣でした。いずれの国でもこれ以上の「押印お願い」はないでしょう。究極のヤラセにより、この実逓カバーには1996年8月9日の鮮明な消印が押され、途中で盗難されることもなく無事に日本に到着したのでした。
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