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August 17, 2013

メランコリア・1514

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 デューラーの作品はいくつも切手になっています。彼が生きたのは日本で言えば室町時代。応仁の乱が終わって戦国時代に突入し、織田信長もまだ歴史に登場しないおよそ500年前です。にもかかわらず作品の多くが繰り返し切手原画に採用されているのは素晴らしいことです。
 図版の小型シートは銅版画の代表作のひとつ「メランコリア」。幾何学的で硬そうな不思議な物体、軟らかい肉感を伴って安らかに眠る犬、布の質感表現が巧みな天使など、一枚の画面にあらゆる種類のオブジェが描き込まれています。西欧の銅版画は500年前にすでに完成していたことを今に伝えています。
 この圧倒的な伝統の力があった上で西欧の凹版切手があるのです。スラニア彫刻の凹版切手はそのまさしくそのお手本です。写真かのようなリアルな表現以上に、ある種の神的な印象すら訴えてきます。

 紙幣、国債・公債、有価証券そして郵便切手に求められる凹版技術は、世界最初の郵便切手であるイギリスのブラック・ペニーの時点で第一には偽造防止目的でした。のちに美しさをも求められる時代になり、日本でも優秀な凹版彫刻師が育成されましたけれど、製造コストの高さから今では凹版切手自体がほとんど発行されていません。それゆえに美しい凹版切手の発行再開を望む声も多いのですけれど、私は多少異論を持っています。安易な凹版切手の発行には反対です。
 凹版彫刻はやはりヨーロッパのものです。いくら技術を習得してもスラニアのような精神性をも表現できるのは非常に困難だと思います。当のヨーロッパ各国でさえ難しいというのに、日本ではとてもとても畏れ多いことだと考えます。
 日本人以外の、例えばヨーロッパ人が歌舞伎に魅せられてこれを学んだとします。ですが、どんなに上達しても「お上手ですね」とは言われても本当の歌舞伎役者にはなれません。これと同じです。日本人がいくらがんばって凹版彫刻技術を身に付けたとしても所詮「お上手ですね」な切手しかできないのではないかと思います。日本人はやはり木版印刷であり、浮世絵、漫画の歴史の上に立った表現方法を追及するのが本筋だと考えます。日本切手における凹版切手の傑作と言われる平等院鳳凰堂の切手などですら、目の肥えたヨーロッパの人が見たら猿真似にしか見えないのではないかと謙虚に危惧しています。

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 なお、冒頭の図版はパチもん切手の濫発国で有名なモンゴルの発行です。没後450年にあたる1978年の追悼顕彰切手です。メランコリアを当時そのままに凹版で再現するだけの技術力があるはずもなく残念?当然?ながらオフセット印刷です。メランコリアを凹版彫刻で再現した切手やブラックプリント、プルーフ、エッセイ等は実在しているのでしょうか。存在するならぜひ拝見したいものです。

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