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September 18, 2011

差別郵趣

11091801 郵便切手は世界を写す鏡とは良く言ったもので、明確な目的を持って、あるいは図らずも意図せずして、各時代の様相を今に伝えるタイムマシンとしての働きをします。現代の諸問題も意外に古い時代にその根源があることも切手でよくわかります。そのネガティブなテーマのひとつとして人種差別問題があり、図の2枚は私が好んで引き合いに出す切手です。右の南アフリカ共和国の切手(1994)から元大統領ネルソン・マンデラ氏であることはどなたでもおわかりでしょうが、左の切手もまた同氏の肖像であることに軽い衝撃を覚えた方も多いと思います。
 ネルソン・マンデラ誕生70年を記念して、なんと旧ソ連が1988年に発行した記念切手です。氏は1962年8月に逮捕され、釈放されたのは28年後の1990年2月11日でした。本切手が発行された時はいまだ獄中にあったため、見慣れた晩年の白髪姿ではなく、若き反アパルトヘイト運動指導者の頃の肖像画しか描きようがなかったのです。私たちのほとんどは獄中から出てきた老人のマンデラ氏を見たのが初めてであって、それ以前は氏の名前すらろくに知らなかったはずです。かつての"あの"ソ連ですから政治的なあざとい下心を抜きにはできないものの、実際に切手を発行しているという実績は無視できるものではありません。
 更に氏が切手に登場したのはソ連切手が初めてではありません。国際人種差別反対年の1978年にケニアなどアフリカ諸国切手に既に登場しています。我が日本国においては人種差別自体が存在しないとでも言うのか、国連の制定年にもかかわらず記念切手の発行そのものがありませんでした。1919年、世界で初めて人種差別撤廃を国際連盟に提案した同じわが日本国とは思えません。

11091802 同様に一見して平等を装っていながらその実は上っ面だけの誤魔化しであることも郵趣の一断面から容易に透けて見えます。次に取り上げるのは言葉と宗教の問題です。1990年代のアメリカに端を発したポリティカル・コレクトネス(political correctness)がまさにそれです。言葉や用語に差別的な意味が含まれないよう政治的に正しい配慮をしようというものです。ここで例に出すのはクリスマス切手です。クリスマスはキリスト教徒のお祝いなので公平さを欠くからと2004年末の記者会見でブッシュ大統領が「メリー・クリスマス」ではなく「ハッピー・ホリデーズ」と発言したことが非常に有名です。この影響がいつ切手上に現れるかと思っていましたら2006年に現れました。左はミクロネシアが発行した5種セットのうちの1種で、実際はアメリカの切手代理発行会社によるエージェント切手です。図のように印面下部にHappy Holidayと表示されているものの、図案はどう見てもクリスマス以外に考えられません。このあたりがいかにもアメリカらしい欺瞞臭がふんぷんです。
 このクリスマス問題は歴史の否定であるという反対意見も根強く、容易に解決しそうにありません。当のアメリカ郵政公社などは、従来からのクリスマス切手に加えてユダヤ教のハヌカー祭切手、アフリカ系アメリカ人のクワンザ祭切手、イスラム教のイード切手、そしてアジア系の年賀切手を発行することで郵趣的には問題が沈静化したように思います。やはり言葉を言い換えるのは方便に過ぎなかったのでしょう。結局はそれぞれ固有の文化を表現する自由があってしか平等・公平を実感できないことを示していると思います。
 下図は1990年12月に差し出されたクリスマスメール(はがき)です。表にはHappy Holidaysと大書きしてありますが、裏面はばっちりクリスマス図案です。こうやって実物を見るとやっぱり違和感が拭えません。まやかしが透けて見えるとはまさにこのこと。むしろ、受取人は退役軍人さんなのに国連切手とは言え国旗シリーズのベトナムを貼ってることの方がちょっとどうかなと思われませんか?(笑)

11091803

 昨日、フランス、ベルギーに続いてオランダも公の場でのイスラム教の女性が身につけるブルカを禁止したとのニュースが報じられました。わが国の在日外国人の参政権付与反対運動もまた然りです。しかし、郵趣をたしなんでいると相互主義という観点が第一に思い至ります。一方の主張をただ受け入れるのが公平ではないのです。例えば日本と他の某国との友好切手はお互いの国が同じテーマで発行し合ってこそフィフティー・フィフティーであることを私たち郵趣家はよく知っています。
 イスラムの国を訪問した時、外国人女性と言えどもブルカを強制されるのであれば、同様にその逆もまた然りでキリスト教国でブルカを禁止されてもやむをえません。在日外国人に参政権を付与するのであれば、海外に居る日本人にも現地国での参政権を保証されなくてはいけません。お互いがお互いの文化、社会的規範を尊敬の心をもって認め合うのが最も重要な観点です。
 この他にも喫煙者差別、女性差別などなど、郵趣には端的にそれらが現れます。切手収集という言葉の持つ響きが幼稚性を帯びているためか、このような意義深い側面があることに気付かない人が多いのは不幸なことです。自分が好んで「郵趣」「フィラテリー」という呼称を用いているのも(完全に納得している用語ではないものの)それが主たる理由です。


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