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September 10, 2011

山口県の近現代史と郵便

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 思えば我が椙山家は郵便、蒐集といったことと縁があるようです。曾祖父の椙山伊三郎は下関郵便局の窓口係をしていて、たまたま通りかかった女学生を見初めて嫁にしました。明治時代のことですからなんという剛胆なことでしょう。結婚後、独学で英語を学んで渡米し、苦労の末にサンフランシスコのウエブスター通りに杉山伊三郎商店を構えました。営業内容が釣具店兼古美術商というのですから、曾孫の自分が本業がアート関係、プライベートが郵便切手のコレクターことフィラテリストたるのも因縁と思えてなりません。
 上はその伊三郎宛の暑中見舞状です。アメリカのはがきに日本の消印とは不思議に見えますが、これが正しい使用例です。まず伊三郎が下関市の知人宛に国際往復はがきを送り、受取人は返信部を切り離して送り返したのです。その際、万国郵便連合(UPU)の取り決めにより、相手国の郵便制度で返送されることになっているので日本の郵便局の消印(山口・田部 23.8.2 山口縣)が押されたのです。伊三郎が当時盛んだった絵はがきコレクターでもあったので、この手の郵便物がうちにごろごろありましたけれど、一般的には少ない使用例であることは後に知りました。

 うちに限らず、山口県は郵便史においても他県にひけをとらない奥深さがあります。伊三郎が居たサンフランシスコをはじめ、県内各地から朝鮮、満州、南米へ、周防大島からは主にハワイへと渡っていった移民の生活をたどる郵便の研究は意味があるように思います。
 特筆すべきは中国の改革開放政策が進んだ結果、予想外の郵便物が陽の目を見るようになったことです。下は昭和37年に黒竜江省の日本人(日本人妻か?)に送られた郵便です。通信文は失われ、右に示した中国政府側の受付票らしき小さな紙片が残されているのみです。雨漏りでもしたのか、封筒全体に浸水汚れが広がっています。興味深いことに、この郵便物はどうも受取人には届いていなかったらしい、とは日本に里帰りさせてくれたディーラーさんの話です。改革開放の結果、経済力がついた、かの街も再開発で役所の建物が解体されることになりました。その際に出てきたゴミの中にあったものを現地中国人バイヤーが拾い上げ、幾多の幸運の末に私の許へと「復員」してきたのです。
 話はまだ続きます。なんと本便の差出人は山口県庁の世話課の池田なる県職員です。さりながら県庁銘の入った公式封筒を使わず、当時はまだ珍しかったはずの横書き洋式封筒を使っています。果たしてオフィシャルな業務の一環であったのか、否か。そもそも日中国交正常化前のことですから、一体どのようなルートで運ばれたものでしょうか。

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 郵便創業以来の山口県内の郵便印を収集・研究されている大家の方は複数いらっしゃいます。しかし、太平洋戦争をはさんだ近現代史の視点で取り組んでいるという方は残念ながら存じ上げません。移民以外でも国鉄の整備と国際路線化(関釜航路)、国策の炭坑・セメント産業(山陽小野田市・宇部市・美祢市)、戦後の進駐軍(英連邦軍)と在日米軍基地(岩国の米海兵隊)、朝鮮戦争との関係など多岐にわたります。それぞれのテーマが独自の奥行きを持っているため、個人の力では手が回らないというのが現実だと思います。
 一方、国内だけに目を向けても、昭和初期の食糧増産による漁業振興の痕跡も郵便から知ることができます。もちろん、これには長門市、下関市の捕鯨の歴史も含まれます。今では侘しい限界集落しか残っていない離島も、往時は漁業従事者で溢れ返っていました。その例として他県ではありますが、昭和3年に鹿児島県の東シナ海洋上に浮かぶ甑島(こしきじま)から山口高等商業学校(今の山口大学経済学部)あてに送られた昭和大礼(昭和天皇の即位)記念切手を貼った特印(記念印)付きのカバーを示します。当時の甑島はまさに漁業で大いに栄えた島ですし、記念切手も特印もきちんと配給・配備されていても何の不思議もありません。ただし、山口商業と一体どんな関係があったのでしょうか。切手屋さんの店頭でこれを見つけた時、思わず「なんで『かごしまこしきじまいむた』から山口に送ってんだ?」とつぶやいたところ、「どうして『鹿児島甑島藺牟田』をすらっと読めるの?!」とたいそう驚かれました。今では皆の意識からもいかに忘れ去られているかを物語っているようです。
 山口県の近現代史を扱う郵趣サークルができるのが理想です。ファンタスティック・スタンプクラブ(FSC)でそれをやってもいいですね。

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